クドカンドラマに異変が!? 宮藤官九郎が脚本を手掛ける2つのドラマの設定が、別のドラマと設定が「そっくり」と話題を呼んでいる。
オリジナリティ溢れる作風で人気のクドカンドラマに何があったのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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今月1日に、2019年放送の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』(NHK)の新キャスト発表会見がありました。そこで注目を集めたのは、役所広司さんとピエール瀧さんの二人。同作は日本初のオリンピック選手・金栗四三(中村勘九郎)の活躍を描いた物語ですが、役所さんは日本のオリンピック参加に尽力する嘉納治五郎を、ピエールさんはマラソン足袋の開発に挑む足袋屋の店主・黒坂辛作を演じます。
ここで頭に浮かぶのは、現在放送中の『陸王』(TBS系)。役所さんがマラソン足袋の開発に挑む足袋業者を、ピエールさんがライバルの大手メーカーに勤める営業部長を演じているだけに、多くの人が「かぶった!」と思ったのです。
話はこれだけで終わりません。同じく現在放送中の『監獄のお姫さま』(TBS系)も、今年4~6月に放送された『女囚セブン』(TBS系)と似ていると言われているのです。両作には、「女性刑務所が舞台」「受刑者同士が意気投合」「えん罪を晴らすために奮闘する」などと共通点が多いだけに、そんな声が挙がるのも仕方ないでしょう。
『いだてん』と『監獄のお姫さま』の脚本家は、奇しくも宮藤官九郎さん。「(通称)クドカンがまさかのパクリ?」なんて声もありますが、これまで『あまちゃん』(NHK)を筆頭にオリジナリティあふれるヒット作を手がけてきた宮藤さんに何が起きているのでしょうか。
◆満島ひかりのコメントに真実が
結論から言えば、どちらもパクったという事実はありえません。もともと宮藤さんは、「何もないところから、1つのイメージを見出して、それを徐々に具体化させながら話を広げていく」というタイプの脚本家。たとえば『うぬぼれ刑事』(TBS系)は、「必ず犯人に恋してしまう刑事が、『罪を見逃す代わりに結婚するか、逮捕されるか』の2択を迫り、失恋してしまう」というイメージをベースに作られた脚本でした。
また、宮藤さんは『監獄のお姫さま』について、「これまでいろんなドラマを作ってきましたが『で、つまるところ俺は何を書きたいんだ』と自問自答しました。結局、おばちゃんのおしゃべりを書いてる時が一番楽しいという結論に至りました」「彼女たちのおしゃべりをエンドレスで聞ける場所はどこか、と考え舞台を女子刑務所に設定しました」とコメントしています。さらに、満島ひかりさんが「女囚のお話で、満島さんは看守さん」という具体的なオファーを3年前に受けていたという事実も、長い構想期間を裏づけています。
そもそも、『女囚セブン』の筋書きを知ってから『監獄のお姫さま』を執筆するのは、多忙な宮藤さんにとってスケジュール上不可能。同様に『いだてん』も、東京五輪のプレイヤーにふさわしい作品を考えてのことであり、誰も好き好んで“後発”を選ぼうとしないでしょう。
◆人気作家でもプロデューサーと二人三脚
ただ、本当の問題は、「結果的に2作連続で似た設定になってしまった」こと。
宮藤さんの脚本は、「余命半年」を宣告された主人公が草野球チームの仲間と怪盗団を結成する『木更津キャッツアイ』(TBS系)、バカップルの妻がオッサンに変身してしまう『ぼくの魔法使い』(日本テレビ系)、A→B→C→D→Eとイニシャルで片想いがすれ違う『マンハッタンラブストーリー』(TBS系)。
落語とヤクザの世界をリンクさせた『タイガー&ドラゴン』(TBS系)、海女とご当地アイドルという2つの視点から地元愛を追求した『あまちゃん』、男子校と女子校の合併共学化を明るく描いた『ごめんね青春』(TBS系)、さまざまなゆとり世代の現実を書き分けた『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)など、誰もマネできないようなオリジナリティあふれる設定が魅力でした。
言わば、脚本家の中で最も設定がかぶりにくいタイプなのですが、宮藤さんほどの人気脚本家でも自分一人でドラマのテーマや舞台を決定することはありません。プロデューサーと二人三脚でテーマや舞台を決め、プロット(あらすじ)を作っていくという形になります。そもそも宮藤さんは「脚本は変えてもいいですよ」というくらい柔軟な人だけに、2作のテーマや舞台がかぶったのは、むしろプロデューサー側の問題とも言えるでしょう。
近年ドラマ業界では低視聴率を避けるために、刑事・医療・不倫・復讐など似たテーマや舞台の作品が増えています。『監獄のお姫さま』も当初、宮藤さんは「舞台を女子刑務所にしよう」と考えたところ、「それだけじゃドラマになりません」と諭されてストーリーを組み立てた結果、「思いがけず壮大な復讐劇になりました」とコメントしていました。
もし宮藤さんほど独自の世界観を持った脚本家が、視聴率をめぐるテレビマンの論理に巻き込まれて、作風に変化が生まれているとしたら……それはドラマ業界のためにはならないでしょう。
◆映画はさらに破天荒な作品ばかり
ちなみに宮藤さんは、かつて「大好きなロック映画を作りたかった」と言い、『少年メリケンサック』や『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』などの破天荒な作品を手がけてきました。その他も、『舞妓Haaaan!!!』『鈍獣』『中学生円山』『謝罪の王様』など、映画では破天荒な作品ばかりです。
宮藤さんは何度かインタビューで、「脚本家として1つの作風に絞られるのではなく、どんどん広げていきたい」と話していました。視聴者にしてみれば、「映画とドラマで異なる作風を見られる」という楽しみがあることになります。
最後に話をドラマに戻すと、「宮藤さんが得意とする奇抜なテーマや舞台を他のスタッフも手がけはじめている」という見方もできるでしょう。『女囚セブン』がまさにそれであり、特に23時以降の深夜ドラマにその傾向が見られます。
いずれにしても宮藤さんが同業者や若手のスタッフたちに影響を与えているのは間違いないだけに、今後の『監獄のお姫さま』には圧倒的なインパクトを期待しています。